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PERFORMANCE

三宅純 Lost Memory Theatre〈The Concert〉
KAAT神奈川芸術劇場 2018.11.23

Written by ヴィヴィアン佐藤|2019.2.12

撮影:小林のんき

最近、日本では秋になると三宅純のライブが行われる。あたかも秋の風物詩のようだ。パリ在住の三宅は頻繁に日本ではライブの実現がなされず、また参加ミュージシャンは世界各国からその日のために召喚されるので、なおさら開催が困難とも言える。

三宅のライフワークである『Lost Memory Theatre』は、2017年を持って三部作が完成された。通常のミュージシャンならば新譜が発売されての新曲披露の場というべくコンサート開催となるが、三宅の場合は趣を異にしている。すべての楽曲は消費されにくく表面上の同時代性や地域性は完全に否定され、誰もが持つ無意識的な深層部分の現代性が浮き彫りにされる。ヒットチャートやビルボードのような限られた期間の売上数などどは程遠い態度とも言える。

撮影:山倉一樹

『Lost Memory Theatre』の原風景とは、デヴィッド・リンチ作品『マルホランド・ドライブ』(2001)後半に登場する不可解なクラブ「シレンシオ(Silencio)」だという。そこでは実在の音と風景において歪みが生じ、経験や記憶といった本来の人間のもつ定義が溶解する。三宅の音作りもまた音符をして楽譜に落とし込んだり、平均律といった音階で表記されるものでは決してない。指し示す対象を失った音。存在しない映画のサウンドドラック。実在しない街の地図。経験しなかった記憶。見なかった残像、、のようなものかもしれない。

今回のKAATのコンサートでは、音楽とダンスにより2014年に同会場にて上演された舞台『Lost Memory Theatre』を演出した白井晃が空間構成を担当した。舞台にはスクリーンとなるべく巨大な本棚が出現し、そこには教会や月夜、砂漠といった様々なイメージが現れては次の瞬間には消えていった。

撮影:小林のんき

リサ・パピノーやコスミック・ヴォイセズ、ブルーノ・カピナン、そして勝沼恭子といったお馴染みのヴォーカル陣に加え、ベースのバカボン鈴木やヴァイオリンの金子飛鳥も名を連ね、音響は世界屈指のフィリップ・アヴリルとザックが担当。

いつものように三宅ファミリーが全員集結し、ホールでの音楽業界の最高峰のスタッフがそれを支え、歴史に残る音楽と視覚の経験をしたと誰もが思うひとときであった。その経験だけは実在のものであろう。

INFORMATION

三宅純 Lost Memory Theatre〈The Concert〉

KAAT神奈川芸術劇場
2018年11月23日
空間構成:白井晃
美術協力:木津潤平
映像協力:宮永亮

WRITER PROFILE

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ヴィヴィアン佐藤 vivienne sato

美術家、文筆家、非建築家、ドラァグクイーン、プロモーター。ジャンルを横断していき独自の見解でアート、建築、映画、都市を分析。VANTANバンタンデザイン研究所で教鞭をもつ。青森県アートと地域の町興しアドバイザー。尾道観光大使。サンミュージック提携タレント。

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